椅子を使用した俳句

俳句例:201句目~

椅子の背に冬至日暮の日が斜め/高澤良一

悴む身ほどけて椅子に深くをり/高木晴子

銃眼にねらわれて座す籐の椅子/対馬康子

釈迦生れぬ浄飯王は朱の椅子に/下村槐太

憩なし獣皮の椅子の背の灼けて/後藤綾子

酒飲んで椅子からころげ落ちて秋/小澤實

春の霜椅子出して身を光らせる/古宮映川

逆さまの椅子がずらりと誕生日/五島高資

からたちの花座りよき椅子一つ/三浦ふく

退職工諭し夕焼の椅子すゝむ/米沢吾亦紅

この椅子にぬくみ與へて老いにける/篠原

この椅子に人在らぬ日の夏落葉/中村苑子

迷ふことばかりや汗の職の椅子/皆川白陀

涼風の揺椅子に添ふ聖書かな/中戸川朝人

短夜や縋るべうなく椅子かたし/小林康治

椅子に倚るや緑蔭までも海の紺/白松達夫

椅子すこし引いて美し火春暖炉/皆吉爽雨

足音をきゝ振り向かず椅子涼し/高木晴子

梅雨寒や教会の椅子堅きまま/越田美奈子

ちちろ啼くもたれて固き夜の椅子/関根光

俳句例:221句目~

ちちろ虫詩人の椅子を置く舞台/渡辺夏紀

春暖炉椅子が汚れてにぎやかに/古舘曹人

補助椅子や隣も胸に愛の羽根/水原秋桜子

春暖炉椅子二つ置き一つに凭り/鈴木栄子

ひとを待つ椅子に春光届かざり/谷口桂子

行厨の秋刀がた~の現場椅子/米沢吾亦紅

蟻の道見てをり椅子の背ナ抱ヘ/行方克己

樽椅子の屋号は鍵屋木の実降る/田原公世

蜑の子に椅子ゆづらるる心太/藤原たかを

やがて来る者に晩秋の椅子一つ/有馬朗人

手袋や退社ばたばた椅子よせて/大津希水

虹立ちてたちまち雨の乾く椅子/岸本尚毅

枯芝に椅子テーブルを下しくる/野村泊月

春芝に置きたる椅子のみな斜め/久米正雄

捨てかねし椅子にどつかと花曇/中島双風

省庁の椅子やはらかき五月かな/影島智子

藤の実の影のつめたき陶の椅子/長谷川櫂

犬と対す日向の椅子に柿食ひて/下村槐太

描きかけの椅子を並べし如月野/栗林千津

椅子に足ぶらぶら垂らし入学児/諸星己城

俳句例:241句目~

薬待つ椅子の固さよ小鳥来る/中西徳太郎

バス停の椅子新しく年のくれ/萩原まさえ

永き日よ校庭の椅子うごき出せ/横山白虹

椅子に寝て波のプールは海の音/松浦敬親

花馬酔木われ瞑想の椅子の欲し/小宮山勇

深夜涼し脚細りゆく戸外の椅子/大井雅人

揺り椅子を揺り薫風の庭にあり/福田蓼汀

マロニエの葉蔭はふかし椅子一つ/有働亨

浜茶屋の夏炉に軽い椅子寄せて/上野章子

椅子足りず柏餅また足るかしら/山田弘子

花火の夜椅子折りたたみゐし男/三橋敏雄

春闘練るバネ強き椅子夜の仲間/飯島草炎

二つ置く見合の椅子や紅芙蓉/並松生代女

亡き父の椅子に母居り盆の月/下田八須子

海に触れゐて薔薇園の白き椅子/原田青児

揺椅子のきしみて深む霜夜かな/吉川与音

人を待つ画廊の椅子に日脚のぶ/吉屋信子

敗色濃し珈琲を飲む椅子探す/林田紀音夫

人去りし揺り椅子の揺れ夜の秋/原田青児

人去りし椅子の対話に暖炉燃ゆ/岡田貞峰

俳句例:261句目~

花冷えの高さ揃はぬ弥撒の椅子/中尾杏子

今もあるひとつの椅子や緑さす/折井紀衣

仏教や理髪の椅子も老いゆけり/攝津幸彦

椅子に坐すものなし霧の渡し船/右城暮石

椅子三千はじめに老婆来て坐り/岡田耕治

教会のつめたき椅子を拭く仕事/田中裕明

余りし椅子を蝶に与えし侍従長/寺井谷子

停車場の椅子に衿卷を忘れしよ/正岡子規

牡蠣殻のように椅子積む餐のあと/渋谷道

元旦の夜や子の椅子に腰おろす/横山白虹

八十八夜海見る椅子を少し引く/星多希子

色鳥やベランダに置く子供椅子/鈴木貞雄

椅子となる石は占められ居待月/朝倉和江

春雷や帰りたくなきバーの椅子/戸板康二

老人の椅子に坐しゐる梅雨明り/京極杞陽

冬天を降り来て鉄の椅子にあり/西東三鬼

椅子の背をすべる衣や春の宵/大場ひろみ

冬薔薇や海に向け置く椅子二つ/館岡沙緻

緑陰に罠かもしれぬ椅子ひとつ/望月哲土

椅子に組む脚うつくしく巴里祭/山下喜子

俳句例:281句目~

初冬やこゝに移して椅子に倚る/松藤夏山

緑蔭の椅子人生長く倦みにけり/木下夕爾

緑蔭に椅子空けておく季羊の忌/吉田亜司

緑蔭にして脚しろくほそき椅子/木下夕爾

十六夜の翼濡れをり父の椅子/辺見じゅん

極月の文芸うすし椅子鳴らす/米沢吾亦紅

厳寒や滝見の椅子の厚ぼこり/五十嵐播水

百物語舞台に椅子のひとつだけ/小田允夜

図書館の椅子がぐらつく万愚節/藤井洋舫

榛の花夕日に向けて椅子一つ/藤田れい子

総身に月光滲みぬ椅子を立つ/石井とし夫

椅子一つ抛り出されて避暑果てぬ/森田峠

紅梅や背に飾りある鉄の椅子/伴場とく子

月の出も遅くなりしと庭に椅子/高木晴子

夏行くか椅子古く星カシオペア/細見綾子

竹の春いつもの位置に父の椅子/角川春樹

亡き妻のしづかに坐る雪の椅子/石田勝彦

模擬店の椅子の小さく赤とんぼ/山田弘子

月へ転う革椅子友の死をうたがい/渋谷道

白梅の真中はいまも父の椅子/波多江敦子