季語/牡蠣(かき)を使った俳句

俳句例:201句目~

秘仏観て若狭の牡蠣の膳にあり/徳橋文室

種牡蠣を植うるひと日の曇かな/宮津昭彦

空色のゴム手袋や牡蠣を割る/松本みず代

給るは石花にかしこしひねり文/服部嵐雪

耶蘇島のなべて無口の牡蠣割女/武藤壱州

牡蠣を打つ鐵刃濡れては鐵光り/中島斌男

行く年や石にくひつく牡蠣の殼/正岡子規

牡蠣棚に群れて夜を待つ鴎かも/村田眉丈

西空透く夜は牡蠣雑炊ときめ/北原志満子

旬も旬旬の酢牡蠣に若くはなし/高澤良一

個々の牡蠣眠るは縮む外科個室/赤尾兜子

部屋割も旅二日目の酢牡蠣から/中村汀女

沙釣や牡蠣田にほそき舟のみち/木津柳芽

牡蠣舟の灯りゐ人気なき障子/後藤比奈夫

酢牡蠣喰べけむりのごとき雨に遇ふ/鴻司

酢牡蠣塩梅実家の嬶座の代変り/菊池志乃

牡蠣殻の山空風と馴れ合ふよ/百合山羽公

雑踏をゆく牡蠣提げし右手冷え/佐野美智

夕波や牡蠣に老いたる船の腹/芥川龍之介

牡蠣そだつ静かに剛き湾の月/柴田白葉女

俳句例:221句目~

塗箸がはたまた牡蠣が滑るのか/高澤良一

同行として磴に踏む牡蠣の殻/鈴木六林男

牡蠣打ちの妻の姿を遠まもる/佐野まもる

牡蠣飯を炊く古釜を磨きけり/岩崎富美子

牡蠣の海轉舵の泡が牡蠣さながら/三好潤子

牡蠣の酢の濁るともなき曇りかな/高浜虚子

牡蠣むきの殼投げおとす音ばかり/中村汀女

牡蠣よりも海鼠の黙ぞ深からむ/相生垣瓜人

牡蠣をむくまも夕汐が騒ぐなり/長谷川春草

牡蠣をむく手にも自信の広島女/稲畑広太郎

牡蠣を打つ岩と同じに死にたけれ/萩原麦草

牡蠣フライひとの別れに隣りたる/加藤楸邨

牡蠣剥くは身ぐるみ剥ぐに似たりけり/瓜人

牡蠣割るや舟着の板欠きしまゝ/百合山羽公

牡蠣割る瞳牡蠣負ふ夫へ向けやさし/岸田稚

牡蠣割女かきは女体の青さもつ/日垣四月子

牡蠣の口もし開かば月さし入らむ/加藤秋邨

牡蠣打たれ積まる爆音みなぎれり/中島斌男

牡蠣打ちし後あり~と潮満つる/森岡とも子

牡蠣船や原爆ドーム灯をもたず/延平いくと

俳句例:241句目~

牡蠣打女坐して濡れざるところなし/藤井亘

牡蠣殻へしろがねの雨ふりにけり/吉田紫乃

牡蠣殻を照らすともなく出でし月/岸本尚毅

牡蠣生きる潮に月光わたりけり/柴田白葉女

「今夜は酢牡蠣」妻の前触れ愉しけれ/林翔

牡蠣船を揺らしてゐしは仲居らし/後藤立夫

あら玉の牡蠣と狂歌に読めりける/尾崎紅葉

牡蠣鍋に肝胆照らすこともなし/後藤比奈夫

さそはれて千鳥を聞きに牡蠣船へ/清原枴童

牡蠣鍋の葱の切つ先そろひけり/水原秋桜子

牡蠣鍋や今宵は雪とうらなひて/水原秋櫻子

牡蠣鍋や狂はぬほどに暮しをり/大木あまり

ひろびろと酢牡蠣味はふ舌があり/高澤良一

ゆくりなく客とくつろぐ牡蠣飯に/片桐美江

牡蠣置けばかがやくリアス式海岸/櫂未知子

ブランデー一滴牡蠣を睡らしむ/八重樫弘志

牡蠣食うやテレビの像に線走る/田川飛旅子

レモン添え外食めきぬ牡蠣フライ/高澤良一

牡蠣食へば妻はさびしき顔と言ふ/杉山岳陽

不況すすむ牡蠣だぶだぶと粥の海/河野南畦

俳句例:261句目~

乳呑ますときは乳の香牡蠣割女/田村劉一郎

牡蠣飯のうらに浜名湖浪さむし/百合山羽公

亡き友も五指に余るや牡蠣すする/本多静江

人の死に鍋とも酢とも牡蠣まかす/石川桂郎

生ま牡蠣に酢の冷たさの加はれる/右城暮石

冬帽を買ひてもさみし牡蠣食ひても/安住敦

白南風や浮きそこねゐる牡蠣筏/八木林之介

百千の牡蠣を割りたる刃のしづか/和田祥子

剥かれたる牡蠣の白さをなほ洗ふ/花田春兆

知命来るや牡蠣の食べ殻分厚しよ/奈良文夫

砂漠近き夜の仮の世の牡蠣すする/小池文子

破戒後の牡蠣をふくみて輝く目/赤松けい子

同期会にぼつぼつ序列牡蠣すする/奈良文夫

秋風や牡蠣はがしたるあとの岩/鈴木真砂女

子を葬る大都のほとり牡蠣むくなど/三谷昭

寄せ合ひてなほ事務の貌牡蠣啜る/奈良文夫

山の影とろりとろりと牡蠣植うる/林原耒井

山国にきて牡蠣の口かたしかたし/矢島渚男

老の手の乾く間もなく牡蠣を割る/堺/祥江

老懈は言はざることに牡蠣食へり/石塚友二

俳句例:281句目~

老懶は云はざることに牡蠣食ヘリ/石塚友二

考へをれば一等兵牡蠣を食ひ去る/石田波郷

山国に来て牡蠣の口かたしかたし/矢島渚男

舌に乗る酢牡蠣に重みありにけり/高澤良一

船をつなぐ牡蠣のつきたる石燈籠/寺田寅彦

船底を牡蠣は妖しく繁殖てゆく/富澤赤黄男

荒海の牡蠣をはじけるごとく食ふ/平井照敏

菊枯れて牡蠣捨ててある垣根かな/室生犀星

岩牡蠣のやうな爺ゐてさざえ売る/高澤良一

岩牡蠣を呑み込むときの虚ろな眼/高澤良一

岸の灯に牡蠣船の灯のはなれけり/尾崎迷堂

巌壁にとりつく牡蠣の力かな/長谷川零餘子

廃嫡されしほどの巧言牡蠣すする/北野民夫

廓ぬちやまた牡蠣舟へ下りる路地/後藤夜半

揚ぐるには小粒の牡蠣と嘆かるる/石塚友二

揺れてゐることを忘れて牡蠣船に/稲畑汀子

酔いよゝ廻りて鍋の牡蠣固し/長谷川零餘子

酔ひ早む思ひどほりの酢牡蠣なり/高澤良一

本心を突かれて牡蠣の酢にむせぶ/山中宏子

牡蠣舟を出るや牡蠣割既になし/五十嵐播水