季語/師走(しわす)を使った俳句

俳句例:201句目~

師走閑に羽つくろへる孔雀かな/原石鼎

座布団も綿ばかりなる師走哉/永井荷風

廓への用いくつもや師走人/大場白水郎

心電図師走の波形出でをらむ/高澤良一

思ひきの母の長病み師走来る/大橋敦子

怨霊物四番も見たる師走かな/瀧井孝作

抜け道もその抜け道も街師走/稲畑汀子

持舟の皆かへりつく師走かな/大塚羽山

故郷の山しづかなる師走かな/吉田冬葉

数刻のひまを花挿す師走かな/高田蝶衣

下駄の歯を蹴欠いて戻る師走かな/鳳朗

日のさせば巌に猿集る師走かな/原石鼎

暮るる湖見つめ師走の外にあり/柊愁生

替へて早火こぼす師走畳かな/野村泊月

本郷の寺に廻りし師走かな/成瀬桜桃子

枯菊を焚いて師走の閑にあり/木村蕪城

桜湯にひしほの匂ふ師走かな/青木重行

白足袋のよごれ尽せし師走哉/正岡子規

谷川に幣のながるる師走かな/飯田蛇笏

賽銭の音のまさしく師走かな/飯田龍太

俳句例:221句目~

赤々と酒場ぬらるる師走かな/前田普羅

走りゐる師走の月の白かりし/山口青邨

遅くなる戻りは風の師走かな/小澤碧童

酒ねだりよしや師走の刀さし/立花北枝

酔李白師走の市に見たりけり/高井几董

鉄板のガタンと鳴りぬ師走街/星野立子

銭入れの模様を畫く師走かな/会津八一

銭湯の朝かげきよき師走かな/広瀬惟然

鍛冶の槌桶屋の槌も師走かな/井上井月

鏡中に揺らす師走の耳飾り/栃木絵津子

鐵板のガタンと鳴りぬ師走街/星野立子

長梯子何処へ掛けても師走空/高澤良一

門前の人の流れを見て師走/門坂波の穂

門違ふ贈り肴も師走かな/菅原師竹句集

雉子の尾に狭ばき師走の湯殿かな/塵生

雷門くぐれば江戸の師走かな/清水青瓢

顔が来るその一つ見て街師走/皆吉爽雨

鶏の肉食ひて師走の雲ばかり/桜井博道

鷹翔り師走の天ぞひかりけり/加藤楸邨

おうおうと歯を毟らるや極月に/森松清

俳句例:241句目~

なかなかに心をかしき臘月哉/松尾芭蕉

平凡にはや極月となりにけり/中川玉枝

木場深くゐて極月の馬真白/大峯あきら

極月にえたり川尻清潭忌/久保田万太郎

極月に取急ぎたる婚儀かな/今成無事庵

極月に得し好日を如何せん/深川正一郎

極月の一幕を見てなみだかな/松村幸一

極月の光陰たゝみかけてくる/小島隆保

極月の天井近くカナリア飼ふ/大石雄鬼

極月の常臥しの顔木椅子に似/栗林千津

極月の旅にゐて呼び戻さるる/秦羚羊子

親子して師走の壁を塗り急ぐ/平間彌生

いそがしく時計の動く師走哉/正岡子規

いま一つ赤らみ欲しき師走雲/高澤良一

うちこぼすささげも市の師走かな/正秀

極月の滝の寂光懸けにけり/野見山朱鳥

衣配りまつや師走の一かさね/古-立甫

極月の玩具の如き店並ぶ/阿部みどり女

極月の画匠がまとふ革ごろも/石原舟月

牡蠣船の上や師走の橋の音/島村元句集

俳句例:261句目~

止り木に離れて坐る師走かな/角川春樹

極月の移民送りの人らかな/五十嵐播水

極月の空青々と追ふものなし/金田咲子

この街の芭蕉の辻も師走かな/原田青児

さびしさや師走の町の道化者/増田龍雨

街師走わが目的を誰も知らず/高木晴子

極月の職場日誌の欄あふる/米沢吾亦紅

すれ違ふ妻の気附かず町師走/榊原八郎

極月の臼売り臼に腰かけて/寺崎美江女

死の床に死病を学ぶ師走かな/相馬遷子

母訪ふや師走の空の紺一色/星野麦丘人

ほのぼのと師走月夜や昔斎忌/飯田蛇笏

ウインドの銀器に映る街師走/西村和子

極月の観音洗ふ大たわし/五十嵐波津子

極月の詠歌きこゆる電話かな/宮武寒々

キッド観てひとり師走の涙かな/岸田稚

水垢離の背より明くる師走風/横光利一

事足りて而も師走の月夜かな/尾崎紅葉

極月の夜祭山車の競ひあふ/菱田トクヱ

亡き友の遺著また届く師走かな/上林暁

俳句例:281句目~

極月の電車出づれば死後の町/平井照敏

交差点踏み出す半歩街師走/小川濤美子

人はいざ師走を我の端居かな/会津八一

仕事場の振子の音も師走かな/菊池輝行

余白すぐ消ゆる師走の予定表/八木久江

極月やべたべた貼られ千社札/河野友人

光り澄む師走の星のみな低し/新井石毛

汝行きしあとの月日の師走かな/及川貞

公園の喧嘩美声に師走の子/赤松けい子

北陸の師走の街に吾もまじり/高木晴子

喜劇座に一夜笑ふも師走かな/中川四明

極月や晴をつゞけて巷ある/東洋城千句

嘗めもので酒呑む師走日和哉/小澤碧童

噴水の丈切り詰めて師走来る/橋本榮治

洗濯機の中に潜んでいる師走/苅部牧生

塩鮭の風に吹かるる師走かな/田中冬二

極月や神と我との秘密の場/田川飛旅子

売文の筆買ひに行く師走かな/永井荷風

極月や葺きいそがせし屋根瓦/川越寛子

極月や陶の竃に夜の煙/吉武月二郎句集