季語/汗(あせ)を使った俳句

俳句例:101句目~

干麻に汗の笠抛げ縁昼寝/西本一都

樵る汗経読む汗や年積る/尾崎迷堂

舌頭に千転するや汗の玉/正岡子規

肌衰う臀に祭の汗ながれ/和知喜八

白蓮より来て盤上の汗血馬/竹中宏

汗の手に奈落のしづむ岬空/松澤昭

汗の旅夢で橋白鳥となり/友岡子郷

武徳祭少年汗を拭はざる/岸風三楼

汗虱掻かする人を思ひけり/尾崎紅葉

汗袗の私の工夫人知らず/副島いみ子

全身で哭く嬰の産毛汗光る/渡辺和子

全身に汗して人の好意うく/右城暮石

あるきゐし鴉を翔たせ玉の汗/上村占

掌を汗し行務多端の中年期/河野南畦

汝が胸の谷間の汗や巴里祭/楠本憲吉

故里の人や汗して菜飯食ふ/細見綾子

沖縄の怒りをわれも汗し説く/上村占

六月や汗衫をぬぎし青女房/筑紫磐井

沿道に汗を振りまき阿呆連/高澤良一

うすうすと晩夏の髭の汗ばめる/原裕

俳句例:121句目~

方丈の節くれし手に汗手貫/滝沢鶯衣

兵出征機械断層の辺に汗す/細谷源二

おん母は満顔汗の咀華忌かな/斎藤玄

旅をきて袷に汗し榕樹見る/亀井糸游

冠りても脱ぎても汗に島の径/杉本寛

冷汗もかき本当の汗もかく/後藤立夫

泪とも汗ともわかぬ終戦日/今泉貞鳳

刀匠の汗浄らかな粒をなす/品川鈴子

旅衣汗じみしまゝ訪ねくれ/高浜虚子

洗ひ髪ひたいの汗の美しく/星野立子

海藻を食ひ太陽に汗ささぐ/藤田湘子

湖海をつゝむ橋の袂の汗拭/尾崎紅葉

滂沱たる女の汗や糸を取る/相馬遷子

旱草抜くや指頭も汗噴きつ/大熊輝一

濃き影の真上に汗にまみれ立つ/篠原

爽かな汗の上着る浴衣かな/野村喜舟

昼寝ざめ厨に立てり胸の汗/石塚友二

甲子園汗にじむ砂玉として/加古宗也

百姓の裸の背ナを汗ながる/橋本鶏二

百日紅汗眼に湧かせ植字工/宮坂静生

俳句例:141句目~

盆僧の汗芳しく来たりけり/草間時彦

知よりも愛生徒の汗の額髪/友岡子郷

可汗が軍議の庭の牡丹かな/会津八一

石獣の背に干しける汗の衣/山本歩禅

合宿の薬罐汗かく麦茶冷ゆ/篠田悦子

積まれ乾けり嘗て淋漓の汗の石/林翔

李食む午前の汗を流しをり/野沢節子

すでに汗垂るる聖書の一頁/石川桂郎

糸底を切って陶工汗を拭く/谷本淳子

羅のたもとにすきぬ汗拭ひ/高濱虚子

松風をいたゞく汗の額かな/尾崎紅葉

林中をきてありし日の玉の汗/中田剛

枯山を登り一人なる汗拭ふ/相馬遷子

美しき五月の汗を拭はずに/鷹羽狩行

枯草に軍馬の汗を掻き落す/石川桂郎

たくましき僧の腕や汗手貫/高濱年尾

老の汗夕焼さめて来りけり/松村蒼石

老教師汗の鞄も擦り減りし/矢野聖峰

四五柱英霊に駈く汗噴きつ/石塚友二

自転車を巧に汗を拭ひ行く/尾崎紅葉

俳句例:161句目~

四十年前汗かいて波郷ゐし/藤岡筑邨

花南瓜汗ばむ母の顔ひそみ/大井雅人

菅刈と同じからざる汗垂るる/斎藤玄

橇の馬丸胴の汗筋をなす/永田耕一郎

橋たもと風鈴売りの拭ふ汗/今泉貞鳳

機関士に汗機関士の手に油/吉原文音

にこにこと汗ほのぼのと寿/大井戸辿

蓬髪の汗で至芸の火伏せよ/筑紫磐井

死の汗や女の負目皺深く/小松崎爽青

蝋炎や汗かきたまふ閻魔王/河野静雲

執念の汗たれて何つぶやくや/大町糺

行共にして若き尼汗見せず/右城暮石

西芳寺庭見了ンぬ汗を覚え/尾崎迷堂

読経きく両眦に汗ひかり/赤松けい子

夕かへる砲兵隊や馬の汗/芥川龍之介

貧農の汗玉なして夕餐摂る/飯田蛇笏

赤紫蘇にお山詣での汗拭ふ/高澤良一

水無月の汗を離るる仏かな/上島鬼貫

ふらここや少し汗出る戀衣/松瀬青々

夜の町に使となりぬ汗の我/高濱年尾

俳句例:181句目~

赤道直下舟中の汗掬すべし/尾崎紅葉

跳ね違ふ汗の六斎踊かな/鈴木しげを

踊笠うしろに脱ぎし汗男/百合山羽公

身を離るときの快感汗の玉/高澤良一

近江蚊屋汗やさざ波夜の床/松尾芭蕉

ぽろぽろ流れる汗が白い函に/山頭火

長門本逐うて汗の眼すずやけき/原裕

闇汗の闇に声掛け始まりぬ/石川風女

陳情の徒労の汗を駅に拭く/相馬遷子

陶棺に盗汗を敷けり奸王妃/大屋達治

まどろみて首汗ばめり睡蓮花/中拓夫

夫婦して主に汗捧げ甘藷挿す/上村占

汗かきてすこし私の蒸発す/坊城俊樹

女學生御見合ひ否む謂も汗/筑紫磐井

雲湧いて汗滴りのごと清し/野澤節子

汗かきて馬は馬色を失へり/山口誓子

妻刈の汗たる胸に夜は妻を/西島麥南

零細な汗どくだみの花ざかり/穴井太

汗かきの和尚の顔の泣閻魔/河野静雲

青麦に青き穂が出て汗稚し/細見綾子