季語/咳(せき)を使った俳句

俳句例:101句目~

起き出でて咳をする子や寒雀/中村汀女

運慶の仁玉の舌の如く咳く/野見山朱鳥

雪屋根の眉に迫れり咳をのむ/臼田亞浪

電話口咳して兄の出てきたり/星野立子

靴音に咳で応へて灯しけり/板橋美智代

風邪二日咳次ぎかめる洟一斗/石塚友二

こらへゐし咳柊の匂ひけり/石田あき子

餅花の燦爛として咳きにけり/細川加賀

ごほ~と咳きて庵主蚊帳より/清原枴童

馬の咳気にかけながら俵編む/北川蝶児

高値蟹糶るへぶつぶつ咳の婆/石川桂郎

餌磨る媼しはぶけば鶏も咳く/宮武寒々

咳き臥すや女の膝の聳えをり/石田波郷

黒板をしばし離れて咳こめる/藺草慶子

咳くたびに肺臓かなしうかび出づ/篠原

咳くと胸の辺に月こぼれきぬ/巌谷小波

咳く人に白湯まゐらする夜寒かな/几董

咳けば土管の中にマッチの火/石川桂郎

咳けば夜も眼中の火と闘ひぬ/加藤楸邨

咳けば少し抜けゆくかなしみよ/矢島恵

俳句例:121句目~

咳けば月光の濃くなりにけり/草間時彦

ひたとやむ咳の薬や寒の内/筏井竹の門

咳けば痰硝子一枚だけ新し/榎本冬一郎

咳こぼれ人形つかひ女人なり/山岸治子

咳ころし己を殺しゐたりけり/岡田貞峰

咳しつつ出島新地の橋赤し/山田みづえ

咳しつつ炭つぎゐしもしんとしぬ/篠原

咳しつつ老醫受持産に就く/下村ひろし

咳の子のうるみし瞳我を見る/星野立子

咳の後きらりと妻の泪眼よ/能村登四郎

咳の顔月にそむけむ方やなし/斎藤空華

咳ひとつ赤子のしたる夜寒かな/龍之介

咳をして厠の中の人わかる/田川飛旅子

咳をして祝ふ咳して祝はるる/嶋田一歩

咳をする奴は不埒といふ目付/高澤良一

咳入れる人に説きやめ十夜僧/河野静雲

咳払ひしつつ短気を持て余す/谷口桂子

咳止みて万緑滾りゐる寝覚め/斎藤空華

世辞ここだ咳くことも又多し/香西照雄

ダリの青キリコの赤と咳けり/四ッ谷龍

俳句例:141句目~

咳減らし賜へよ伊豆へ師に供し/杉本寛

レスラーが咳してゐたる丸の内/皆吉司

丁字咲き夫婦が一つづゝ咳す/長谷川双

咳真似てゐたる生徒ら黙りけり/森田峠

咳終へて遙かな国に来し思ひ/大野林火

咳耐へに耐へ腹力なかりけり/福永耕二

咳込めば帽子の庇はずみつつ/京極杞陽

図書室の咳一つして今日終る/有馬芳子

夢のごと咳の果にて紙燃ゆる/桜井博道

夫の咳やまず薔薇喰ふ虫憎む/横山房子

人間が居りて咳する芽木の中/右城暮石

始業ベル子らも教師も咳地獄/田中俊尾

代々木踏切越す老優と咳落し/古沢太穂

体ごと咳きて義士祭遠しとす/萩原麦草

俄に咳く息もて供ふ菊厚咲き/北野民夫

寝ねさせよ白むまで咳く咳地獄/及川貞

川風を受けて咳おし戻される/八木博信

広襖閉して蛇笏の咳きかへる/石原八束

怺へゐし咳を柩にこぼしたり/品川鈴子

早雲禅寺梅に咳する人ありて/川崎展宏

俳句例:161句目~

朝の市馬も寒気にむせて咳く/寺田京子

朧月ゆがみゆがめり咳堪ふる/斎藤空華

梅が香や妻戸の内の咳はらひ/井上井月

残雪に咳ひとつして歩き出す/櫻井博道

殿上に貧書生わが咳ひびけり/加藤楸邨

母とわれ夜寒の咳をひとつづつ/桂信子

母の咳妻の歯ぎしり寒夜の底/香西照雄

前山の麦刈る音を咳のあと/中戸川朝人

母の咳道にても聞え悲します/大野林火

十兵衛が謀叛の如く咳こまる/筑紫磐井

双手に顔埋め盛装の咳を埋め/伊藤敬子

民の径精舎に沿へば咳ひびく/桂樟蹊子

泉川いとけなき咳こんこんと/山口誓子

潮騒や松過ぎの咳落すのみ/渡辺七三郎

草芳しもつとも遊ぶ咳する子/中村汀女

炎天に出んとて咳をこぼしけり/森総彦

父の忌や咳けば応ふる星一つ/菖蒲あや

咳きいでて夜半の時雨を遠くしぬ/林翔

牛の咳すべてあたりの青き中/右城暮石

生と死の境に洩らす咳一つ/田川飛旅子

俳句例:181句目~

白き藤房に夜があけ咳やまず/佐藤鬼房

白粉花に咳して漁夫の深まなこ/原田喬

短くも咳きて夜を狩りにゆく/寺井谷子

短日の父母の辺に咳隠すなし/細川加賀

磔の釘打つ如く咳きはじむ/野見山朱鳥

紅の真闇に咳を咳きにけり/八木林之介

老の咳しばし満座を領しけり/香西照雄

「鬼は外」鬼の闇にて咳込めり/桜井博道

あかあかと雛栄ゆれども咳地獄/石田波郷

菊人形咳きしと見れば菊師をり/衣川砂生

咳をして残業の僚たしかむる/米澤吾亦紅

咳払ひうすうす透かし松手入/平井さち子

芭蕉忌や咳する中に子の泣く声/宮坂静生

父の咳母の咳よりさびしかり/正木ゆう子

咳こらへゐしが祈りのうちに咳く/長田等

おなじ人おなじ机に咳しつぐ/川島彷徨子

咳やまぬここより暗夜行路の地/対馬康子

から咳に真昼の深さ白牡丹/鍵和田ゆう子

火口壁に咳きて胸病み視界病む/石原八束

笹鳴の木の裏あたり母の咳/長谷川かな女